マルテンサイトとは?ステンレス鋼の種類と特徴についてご説明

マルテンサイトとは、鉄鋼の一種で、特に硬度や強度に優れた組織のことを指します。 このステンレス鋼の一種は、製造業において特に多様な用途で活用されています。最近、日本国内の中小企業でも、マルテンサイト系ステンレスの利用が増加傾向にあります。この記事では、マルテンサイト系ステンレスの種類とその特徴をご紹介していきます。
目次
1.マルテンサイト系ステンレスの基本概要
マルテンサイトの定義と成分
マルテンサイトとは、鉄と炭素の合金が急冷されることで形成される結晶構造の一種です。マルテンサイト系ステンレスは、この結晶構造を持ち、強度と硬度が高いのが特徴です。マルテンサイト系ステンレスには、クロムを12%以上含有しており、耐食性もある程度備えています。加えて、炭素含有量が比較的高いことで、強度と硬度が増加しています。このため、機械部品や工具など、耐摩耗性と高強度が求められる用途に適しています。
マルテンサイト系ステンレスの特徴
マルテンサイト系ステンレスは、硬さと耐摩耗性に優れているため、切削工具やナイフ、機械部品など、耐久性が求められる製品に使用されます。一方で、他のステンレス鋼と比較すると耐食性はやや劣るため、腐食環境での長期間の使用には適さない場合もあります。しかし、熱処理によって硬度や強度を自在に調整できるため、幅広い製品に利用されています。
2.マルテンサイト系ステンレスの種類
クロム含有量の違いによる分類
マルテンサイト系ステンレスは、クロム含有量や炭素含有量に応じてさまざまな種類に分類されます。クロム含有量が12%程度のものから18%を超えるものまであり、その含有量により耐食性や強度が変わります。また、炭素含有量の違いによって硬さが異なり、用途に応じて適切な材料を選択することが重要です。
SUS410、SUS420J2の特性
SUS410は、クロム含有量が約12%のマルテンサイト系ステンレスで、耐摩耗性に優れているのが特徴です。熱処理によって硬度を高めることができ、バルブ部品やシャフトなど、耐摩耗性が求められる機械部品に利用されています。一方、SUS420J2は、SUS410よりも高い炭素含有量を持ち、さらに高い硬度を実現します。このため、刃物や工具、計測器の部品など、特に硬さが重要な用途に適しています。
マルテンサイト系の代表例
マルテンサイト系ステンレスの代表例として、SUS410、SUS420J2、SUS440Cなどが挙げられます。これらの材料は、製品の耐摩耗性や強度を確保するために利用されており、特に工具や機械部品の分野で幅広く採用されています。
高強度用途に適した製品
SUS440Cは、マルテンサイト系ステンレスの中でも特に高い硬度と耐摩耗性を持つ材料です。炭素含有量が高いため、熱処理によって非常に高い硬さを得られます。そのため、ベアリングやバルブ、工具など、高強度が求められる製品に多く使用されています。しかし、その一方で、耐食性は他のステンレス鋼に比べて劣るため、使用環境の選定が重要となります。
3.マルテンサイト系ステンレスの物理的特性
硬度と磁性の関係
マルテンサイト系ステンレスは、硬度が高く、磁性を持つという特性があります。鉄の結晶構造が体心立方格子(BCC)から体心正方格子(BCT)へ変化することで、硬くなり、磁性を持つようになります。これにより、磁石に反応する特性を持ち、製品の選定や検出機器での利用が可能です。
耐熱性と耐食性
マルテンサイト系ステンレスは、耐熱性に優れており、400℃以上の高温環境でも強度を維持できます。しかし、耐食性に関しては、他のステンレス鋼と比べてやや劣る傾向があります。特に、塩分や酸性環境での長期間の使用では腐食が進行する可能性があるため、使用環境に応じた選定が求められます。
4.マルテンサイト系ステンレスの加工方法
熱処理のポイント
マルテンサイト系ステンレスの加工では、熱処理が重要な役割を果たします。熱処理には主に焼入れと焼戻しの2つの工程があります。焼入れでは、ステンレスを高温に加熱し急冷することで硬化させます。しかし、硬化により材料が脆くなるため、焼戻しによって適切な靱性を持たせることが必要です。これにより、製品の耐久性と強度を確保することが可能です。
溶接・切削加工の注意点
マルテンサイト系ステンレスは、硬さと強度が高いため、溶接や切削加工においては適切な技術が求められます。特に、溶接時には熱による硬化や応力が発生し、割れが生じるリスクがあります。また、切削加工では硬度が高いため、工具の摩耗が激しく、加工条件の最適化が重要です。
曲げ加工とその限界
マルテンサイト系ステンレスは、硬度が高く、加工硬化しやすいため、曲げ加工には限界があります。特に、急激な曲げや小さな曲げ半径を持つ加工では、破断のリスクが高くなります。加工時には、材料の特性に応じた曲げ半径を設定し、加工方法を最適化することが必要です。
5.マルテンサイト系ステンレスの主な用途
工具や刃物への活用
マルテンサイト系ステンレスは、高い硬度と耐摩耗性を持つため、工具や刃物の製造に広く活用されています。特に、ハサミやナイフ、包丁などの刃物では、鋭い刃先を長期間維持することが求められます。マルテンサイト系ステンレスは、熱処理によって硬度を自在に調整できるため、刃先の強度を高めることが可能です。また、切削工具やドリルなど、耐摩耗性が重要な製品においても、マルテンサイト系ステンレスが使用されています。
自動車部品での利用
マルテンサイト系ステンレスは、自動車の部品製造にも欠かせない素材です。特に、エンジンやトランスミッションの内部部品、シャフト、ギアなど、耐摩耗性と強度が求められる部分に利用されています。これらの部品は、高温高圧の環境下で長期間稼働するため、優れた強度と耐久性が必要です。
家電製品への応用
マルテンサイト系ステンレスは、家庭用および業務用の家電製品にも多く利用されています。特に、刃物や金具、バルブ部品など、硬さと耐久性が求められるパーツに使用されています。例えば、ミキサーのブレードやジューサーの刃、食品加工機器の部品など、鋭さや耐食性を維持しながら高い硬度を求められる製品に適しています。
6.まとめ
マルテンサイト系ステンレスは、鉄と炭素の合金が急冷されることで形成される結晶構造を持ち、強度と硬度に優れた特性を持っています。クロム含有量の違いや炭素含有量によって様々な種類に分類され、SUS410やSUS420J2などの代表例があります。これらの材料は、熱処理によって硬度を自在に調整できるため、工具や機械部品、刃物、自動車部品、家電製品など、耐摩耗性と高強度が求められる幅広い分野で活用されています。
マルテンサイト系ステンレスの物理的特性としては、硬度と磁性があり、熱処理の影響で磁性が変化することがあります。また、耐熱性に優れ、400℃以上の高温環境でも強度を保つ一方で、耐食性に関しては他のステンレス鋼にやや劣るため、使用環境に合わせた適切な選定が重要です。加工方法としては、熱処理や溶接・切削加工のポイントを押さえ、適切な加工条件を設定することが製品の品質を向上させます。