フェライトとは?ステンレス鋼の種類と特徴についてご説明

フェライトとは、鉄を主成分とし、クロムを加えた金属組織の一種です。フェライト系ステンレスは、高い耐食性と磁性を持ち、様々な工業製品に活用されています。日本国内の製造業では、耐熱性や加工性を重視した製品への需要が増加傾向にあります。この記事では、フェライトの基本特性や種類、加工方法についてご紹介していきます。
目次
1.フェライト系ステンレスの基本概要
フェライトの定義と成分
フェライトとは、鉄を主成分とし、クロムを添加した金属組織です。フェライト系ステンレスは、鉄の結晶構造がフェライト相を形成することで特徴付けられます。主にクロムを10%以上含み、ニッケルなどの他の合金元素をほとんど含まないため、コストが比較的低く、製造業で幅広く利用されています。
クロムの役割と特性向上
クロムは、ステンレス鋼の耐食性を高める主要な元素です。クロムを添加することで、鉄表面に酸化クロムの保護被膜が形成され、内部の金属が酸化や腐食から守られます。この酸化被膜は自己修復性を持っており、表面に傷がついても再形成されるため、長期間の耐食性を維持することが可能です。また、クロムはフェライト系ステンレスの硬さと強度を向上させ、耐熱性を高める効果もあります。
フェライト系ステンレスの特徴
フェライト系ステンレスは、優れた耐食性と磁性を持つことが特徴です。また、比較的高温に耐えることができ、加工硬化しにくい特性を持つため、成形加工がしやすいという利点があります。一方、他のステンレス系に比べて靱性がやや低いため、低温での使用には注意が必要です。
磁性と耐熱性の理由
フェライト系ステンレスは、その結晶構造により磁性を持ちます。鉄の原子が体心立方格子(BCC)構造をとっているため、磁石に引き寄せられる特性を持っています。この磁性は、製品における特定の用途に適しています。また、クロムの添加によって耐熱性が向上しており、500℃近くの高温環境でも使用が可能です。ただし、長時間高温にさらされると475℃脆化やσ相脆化が発生し、靱性が低下するリスクがあります。
2.フェライト系ステンレスの種類
クロム含有量10%〜14%
クロム含有量が10%から14%のフェライト系ステンレスは、コストパフォーマンスに優れ、一般的な用途で広く使用されています。耐食性は他の高クロム含有ステンレスに比べてやや劣るものの、室内環境や軽度の腐食環境では十分な耐久性を持ちます。
一般的な用途と特性
この種類のステンレスは、調理器具や家電製品の部品、建築内装材などに使用されます。耐熱性と加工性に優れているため、焼き網やオーブン内部の部品、配管など、幅広い製品に適用されています。
クロム含有量14%〜18%
クロム含有量が14%から18%のフェライト系ステンレスは、耐食性が向上し、屋外での使用や化学的な腐食環境に適しています。特に、海水のような塩分を含む環境下でも耐食性を発揮し、安定した性能を保ちます。
耐食性を重視した用途
このタイプのステンレスは、キッチンシンクや給湯機器、自動車の排気系部品など、耐食性が特に求められる用途に使用されています。さらに、食品加工機械や化学薬品を扱う設備などでも、腐食に強い特性を活かして活用されています。
クロム含有量18%以上でモリブデン含有
クロム含有量が18%以上で、さらにモリブデンを含むフェライト系ステンレスは、耐腐食性が大幅に向上します。モリブデンの添加により、特に酸性環境下での耐食性が強化され、一般的なステンレス鋼よりも高い耐久性を持ちます。
耐腐食性が必要な環境での利用
この種類のステンレスは、化学プラントの配管やタンク、船舶の部品など、過酷な腐食環境での利用に適しています。モリブデンの効果により、塩分や化学薬品の影響を受けにくく、製品の長寿命化に寄与します。
3.フェライト系ステンレスの物理的性質
磁性の有無とその特性
フェライト系ステンレスは、鉄の体心立方構造に由来する磁性を持っています。この磁性は、オーステナイト系ステンレスにはない特徴であり、特定の産業分野においては非常に重要な性質となります。
耐熱性と脆化のリスク
フェライト系ステンレスは、耐熱性に優れており、500℃程度の高温でも強度を維持できます。しかし、長時間高温にさらされると「475℃脆化」や「σ相脆化」が発生し、材料が脆くなるリスクがあります。さらに、低温での使用においても「低温脆性」が発生しやすいため、使用環境に応じた適切な材料選定が必要です。
4.フェライト系ステンレスの加工方法
溶接と切削加工のポイント
フェライト系ステンレスは、加工硬化しにくく、溶接や切削加工が比較的容易です。しかし、溶接時には熱による歪みや脆化を防ぐための対策が必要です。また、切削加工では適切な工具の選定と冷却剤の使用が加工精度に影響を与えます。
熱の影響と歪み対策
溶接の際に生じる熱は、フェライト系ステンレスの組織変化を引き起こし、脆化や腐食性の低下をもたらす可能性があります。このため、溶接前後に適切な熱処理を行い、内部応力を緩和することが重要です。また、溶接部の歪みを最小限に抑えるために、溶接速度や冷却方法の調整が必要です。
曲げ加工の特性
フェライト系ステンレスは、加工硬化しにくいため、曲げ加工が容易です。ただし、曲げ加工時には適切な曲げ半径を確保し、急激な変形による破断を防ぐ必要があります。特に、厚板の加工や複雑な形状の成形には、加工条件を最適化することが求められます。
破断を防ぐ適切な加工条件
破断を防ぐためには、曲げ加工時の最小曲げ半径や加工速度を調整することが重要です。適切な加工条件を設定することで、材料の延性を最大限に活かし、曲げ加工後の製品品質を向上させることが可能です。
5.フェライト系ステンレスの主な用途
自動車・家電製品での利用
フェライト系ステンレスは、その耐熱性と磁性を活かして、自動車部品や家電製品に広く使用されています。特に、自動車の排気系部品や燃料タンク、冷却装置などでは、耐熱性と耐腐食性が求められます。フェライト系ステンレスは、これらの要求を満たすための素材として最適です。また、家電製品においては、オーブンや電子レンジ、冷蔵庫など、耐熱性や耐久性が必要な部品に使用されています。
建築材料としての活用
建築分野では、フェライト系ステンレスが外装材や屋根材、内装部品に多く使われています。特に、屋外での使用において耐食性が求められる部分では、フェライト系ステンレスが高いパフォーマンスを発揮します。また、耐久性に優れ、長期にわたるメンテナンスフリーが期待できるため、コスト面でもメリットがあります。
6.まとめ
フェライト系ステンレスは、鉄とクロムを主成分とし、優れた耐食性と磁性を持つ金属組織です。クロムの添加により、表面に自己修復性を持つ酸化被膜が形成され、長期間にわたり耐食性を維持します。また、耐熱性に優れ、加工硬化しにくい特性を持つため、成形加工が容易です。クロム含有量に応じて様々な種類があり、使用環境や目的に合わせて選択することができます。加工時には溶接や曲げ加工の特性を理解し、適切な条件を設定することで、製品の品質を確保できます。
フェライト系ステンレスは、自動車部品や家電製品、建築材料として幅広く活用されています。耐熱性と耐腐食性、さらにコストパフォーマンスに優れているため、製造業において高い評価を受けています。これらの特性を理解し、適切に利用することで、製品の性能と耐久性を向上させることが可能です。